20年前、小泉政権の「皇室典範に関する有識者会議」は、「国民の理解と支持」を重視した。
そして、旧宮家皇族復帰を「極めて困難」との結論を出した。
それから20年あまり。
今度は同じ案が、「立法府の総意」として急速に進められようとしている。
女性皇族の結婚後身分保持案・男系養子案の法制化求める…皇室典範改正案提出へ

私を含め、愛子天皇実現を望んできた人達は、「皇室典範改正」を求めてきた。
もちろんそれは、女性にも皇位継承権をという意味でだった。
それが、こんな最悪な形になろうとは…
旧宮家養子案とは何か
20年前の有識者会議で事実上退けられた案である。
問題となるのは以下である。
- 約600年前に分かれた、旧宮家の子孫(男系男子)を対象とする
- 今上陛下の娘・敬宮愛子内親王には、皇位継承資格が認められない
- 象徴天皇制において、性別要件が妥当かという議論がある
- 男系男子限定は、継承の安定性に課題を抱える
- 皇室典範で、養子は禁止とされている
- 憲法で「門地の差別」にあたるのではないかとの指摘がされている
旧宮家の養子案は、憲法、皇室典範ともに、問題があると指摘を受けている。
不可解な点
そもそも、不可解な点がある。
皇室典範で禁止されている養子制度を導入するための改正は検討する一方で、同じ皇室典範に定められた「男系の男子に限る」という規定の見直しは、議論の対象から外されていることである。
高市首相は、女系につながることを理由に、男系男子維持の立場を示しており、多くの男系男子維持派は「皇室典範で決まっている」と述べる。
しかし、それならば養子制度もまた、皇室典範で禁止されている。
なぜ養子禁止規定は改正の対象となり、「男系の男子に限る」規定だけは議論すら許されないのか。
皇室典範改正そのものを否定するつもりはない。
だが、どの条文なら改正してよくて、どの条文なら議論すら許されないのか。
その線引きは、果たして合理的なのだろうか。
むしろ皇位継承について、憲法は「世襲」と定めるのみであり、継承資格を男子に限定してはいない。
一方、旧宮家養子案については、憲法第14条の「門地による差別」との関係を疑問視する指摘もある。
それにもかかわらず、より議論の余地が大きいと考えられる養子案を進め、「男系の男子」規定だけは最初から議論の対象外とする。
その姿勢に、私は強い違和感を覚える。
20年前の有識者会議は何を重視したのか
2005年の「皇室典範に関する有識者会議」は、皇位継承制度を検討するにあたり、次の3つを基本的視点として掲げていた。
- 国民の理解と支持を得られるものであること
- 伝統を踏まえたものであること
- 制度として安定したものであること
そして同会議は、旧皇族の皇籍復帰について、
「国民の理解と支持、安定性、伝統のいずれの視点から見ても問題点があり、採用することは極めて困難である」と結論付けている。
その理由として、
- 旧皇族は長年一般国民として生活していること
- 天皇陛下との共通祖先は約600年前まで遡ること
- 国民の理解と支持を得ることが難しいこと
などを挙げていた。
それなのに、なぜ今なのか
ここで疑問。
- 主要紙(読売、朝日、毎日、日経)は養子案を批判し、女性天皇・女系天皇を含めた議論継続を求めている
- 国民的議論は、全く尽くされていない
- 立法府内も完全一致ではない
それでも、
「立法府の総意」として、今国会での法改正を目指すとのこと。
20年前は「国民の理解」を重視し、「極めて困難」とされた案だった。

2005年「皇室典範に関する有識者会議」と現在の法制化案の比較(作図:秋津まなこ)
※有識者会議報告書および各党協議内容をもとに作成
天皇陛下会見
皇族数の確保に向けて国会がとりまとめた「立法府の総意」について、「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでいる」(19:45あたりから「皇族数確保」についてのお答え)
憲法第一条
天皇の地位は国民の総意に基づく
とある。
第二条は「皇位は世襲」と続く。
【国民の総意】
媒体により差はあるものの、7割から9割を超える水準で、女性天皇を認める数値が出ている。
女系天皇も7割を超える。
何が何でも男系の男子を維持というのは、1割程度に過ぎない。
「国民を二分」とまで言うような数字ではなく、概ね「総意」と捉える人が多いのではないだろうか。
皇位継承は、単なる性別の問題ではない。
国民が、象徴天皇制をどのような制度として捉えているかの問題である。
私たち国民の象徴として天皇というものを捉えている人にとっては、生まれた時からありのままのお姿を見せてくださった敬宮さまは、一過性の人気にとどまらない。
既に象徴的なのだ。
そして、女性天皇とは、「悠仁さままではゆるがせにしてはならない。悠仁さま以降は女性天皇・女系天皇もあり」と一部の男系派が想定するような 悠仁さんの娘や佳子さんを想定などしていない。
【立法府の総意】
「悠仁さままではゆるがせにしてはならない」
「旧宮家の養子(皇籍にする)」
600年遡らねば今上陛下の流れと繋がらぬ家の男子を皇族にし、皇位継承まで匂わせているのに対し、女性天皇の気配は皆無だ。
「国民の総意」とは非常に大きな乖離がある。
議論を尽くしきっての結論ではないのだ。
なにしろ愛子天皇、女性天皇の話は、「立法府」においては端から排除され、議論の俎上にすら上げられていない。
そもそも、安定的皇位継承についての議論だったはずが、いつの間にか「皇族数確保」に論点がすり替わっていることが、異常な事態であろう。
どうしてそんなに急ぐのか
なぜこのような矛盾した法制化が急がれるのか、その政治的背景を探ると、ある意図が浮かび上がるように思う。
(ここからは、私・秋津の推測)
旧宮家養子案が法制化されたとしても、実際に皇室入りを望む人が現れるかどうか分からない。
仮に居るとして、「安定」につながるのだろうか。
2005年有識者会議も、皇籍復帰は本人の意思に左右され、制度として不安定さを内包すると指摘していた。
この旧宮家養子案の実効性には疑問が残るのだ。
にもかかわらず、急速に法制化されようとしている。
私には、本当に確定したいことは別の部分に見える。
早々に決定づけたいのは、
「敬宮さまへの皇位継承の可能性を、制度上確実に閉ざしてしまいたい」
という強い意図があるように思えてならない。
本当の意図は愛子天皇の排除にあることを、国民に広く知られる前に、制度化してしまいたいという焦りがあるように見える。
国民の議論なくして、「国民の理解」は得られない
どういった結論・結末になるにしても、議論が尽くされないままの強行は、必ずや禍根を残すことは間違いないだろう。
20年前、上記の有識者会議の報告書をもとに、「女性天皇・女系天皇を認める。長子優先。今国会で法案提出する」と、小泉純一郎首相が国会で宣言した。
最も合理的でシンプル、国民の理解も広く得られたであろう小泉案。
当時「通常国会で決めるようなことではない。広い議論が必要だ」と誰よりも反対したのは、同じ自民党の麻生太郎氏だ。
報告書では、あらゆる想定から議論されていたにも関わらず。
その麻生氏が今現在主導し、、恐ろしいほどまでに拙速に、閉ざされた場で強行する皇位継承問題。
なんというブーメラン現象だろうか。
小泉案が「妊娠6週速報」で止まってしまったあの時から、いや、その前年に「秋篠宮夫妻に第三子を」と宮内庁長官に「何者」かが言わせた時から、禍根は生じているのだろう。
解決どころかカオスとなる予感
この件は、単なる皇位継承の問題、誰が次に天皇になるかの問題にとどまらない。
政治が、国民的議論を十分に経ないまま、皇室制度の根幹を変えようとしている。
未来の皇室に責任を負えない現代の政治権力が、若い女性皇族の人生や出産にまで制約を課し、敬宮さまへの皇位継承を執拗に阻もうとする構図そのものだろう。
「今国会で皇室典範の改正を!国民大会 皇室の伝統を守る国民の会」において、麻生太郎氏が
「天皇になりたきゃ、悠仁さまと結婚をするか生涯独身を貫け」
と述べたとしてSNS上で話題となった。
私は現時点で、この発言の確定的な一次資料は確認できていない。
ただ、女性皇族が皇室に残るためには婚姻や生涯未婚を前提とするような議論は、男系男子維持論の中で繰り返し語られてきている。
このような発想が前提にあるのだとすれば、天皇陛下の娘である敬宮さまに対して極めて重い制約を課すものであり、若い女性の人生や人権の観点からも大きな問題をはらんでいると考える。
伝統を理由として、女性皇族にのみ大きな制約を課す発想が、今なお当然のものとして語られていることに強い違和感を覚える。
男子誕生で全て解決!、はどこに?
20年前の有識者会議は「国民の理解と支持」を重視し、旧皇族復帰を「極めて困難」と結論づけた。
20年が経ち、同じ案が「立法府の総意」として急速に進められようとしている。
男系男子派の人が言い続けている「悠仁さまが生まれ、全て解決した」はどこへいったのだろうか。
旧宮家復帰案は、事態がますます混沌としていくように思えてならない。
「国民の理解」は得られているのだろうか。
日本の象徴である天皇について、「国民の理解を得る必要などない」ということなのだろうか。


